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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)6104号 判決 1982年10月25日

原告

北原陽子

右訴訟代理人

三木俊博

植田勝博

木村達也

島川勝

右訴訟復代理人

日下部昇

外一六名

被告

右代表者法務大臣

坂田道太

右指定代理人

小林茂雄

外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し八万円及びこれに対する昭和五五年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告

1  主文と同旨。

2  仮執行免脱宣言。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  (原告)

原告は、三木俊博弁護士を代理人として昭和五五年五月七日大阪地方裁判所に自己破産の申立をし、同年六月七日午前一〇時同裁判所において破産宣告を受けるとともに、破産財団をもつて破産手続の費用を償うに足りないとして、同時に破産廃止の決定を受けたものである。

2  (自己破産及び仮支弁申立に至る経緯)

(一) 原告は、夫であつた辻本正利の債務につき連帯保証をしたことが主たる原因で、マルユー商事こと新本信雄他三〇名の債権者に対し合計約七〇〇万円の債務を負担していたところ、右辻本とは昭和五五年二月二五日離婚し、爾後幼い長男(昭和五三年五月五日生)及び長女(昭和五四年七月一日生)を抱え枚方市より生活保護法による扶助を受けながら一家の生活を維持しているものであつて、資力はなく、右債務を支払う能力がなかつた。

(二) そこで、原告は、弁護士費用につき財団法人法律扶助協会大阪支部から法律扶助を受けて前記三木弁護士を選任し、前記のように同弁護士を代理人として前記自己破産の申立をするとともに、破産手続の費用についてはこれを予納する資力がなかつたので、特に申立の形式をかり破産法一四〇条の規定に基づく破産手続費用の国庫仮支弁を強く促した。

3  (裁判所書記官等の行為)

ところで、右申立につき応待にあたつた大阪地方裁判所第六民事部の担当書記官は、前記のような原告による手続費用国庫仮支弁の要求にもかかわらず、次のとおり、同裁判所における取扱上の慣行を楯に、破産手続費用の国庫仮支弁を拒絶し、右費用の予納をするよう強要し、また、右裁判所の担当裁判官は、かねてより右慣行上の取扱を容認推奨し、右担当書記官をして右のような強要をさせたものである。

(一) 同裁判所においては、自己破産の申立につき、破産法一四〇条が手続費用を国庫より仮支弁すると定めていて、その手続費用を国庫より仮支弁しなければならないことになつているにもかかわらず、国庫仮支弁を認めず、自己破産の申立の場合についても破産手続費用の予納がない限り破産手続を進めないとするのが取扱上の慣行となつていた。そこで、前記担当書記官は、国庫仮支弁申立を添付した自己破産申立書を持参提出した三木弁護士事務所の事務員に対し、右慣行に従い、「このようなもの(仮支弁申立書)を出しても無駄だ。仮支弁など認められない。」といつて明確に仮支弁を拒絶したうえ、「費用を予納しなさい。」と強くいつて、手続費用予納用の保管金提出書用紙を交付した。

(二) そこで、原告は、やむなく法律扶助協会に破産手続費用の追加扶助を申請して五万円を借り受け、同年五月一九日これを手続費用として予納し、ようやく前記のように破産宣告を受けることができたものである。

(三) ところで、自己破産申立事件について、申立人は、一般に迅速な対応がされることを望むものであるが、そのなかでもとりわけ原告の場合のように、申立人が消費者金融における借主であるようなときには、対応が遅れて破産の宣告が遅延すればするほど余計に、自己のみならず親族の者までもが債権者である悪質なサラ金業者から違法な収立を受けて心身ともに疲労し、遂に自殺に追い込まれることも稀ではないことから、速やかに破産宣告を受けて公平妥当な法的整理の手続に入り、債権者からの違法かつ無秩序な取立を制止する必要に迫られているものである。

(四) このように、一刻も早く破産宣告がされて破産手続が開始されることを望んでいる原告に対し、手続費用の国庫仮支弁をしないとの破産法一四〇条の規定を無視した前記裁判所における取扱上の慣行を楯に、同裁判所担当書記官において手続費用の国庫仮支弁を拒み、その予納を強く求めたことは、すなわち、違法に手続費用の予納を強要したことにほかならないものである。けだし、裁判所に右のような慣行を改めさせることは一般に困難なことであつて、かりに交渉によりその変更を求めることができるとしても、それにはかなりの時間を要することは明らかであるところ、前記のように緊急に破産宣告がされることを望んでいた原告にとつてそのような交渉をしている時間的余裕などある筈がなく、勢い、原告としては早急に手続を進行させるため破産法一四〇条の規定を無視した違法な費用予納の要求であつて従う必要のないことを知りながらも、結局はこれに従う以外に道がなかつたからである。

4  (不法行為)

以上のとおり、前記裁判所第六民事部の担当裁判官及び担当書記官は、原告のした自己破産の申立につき、破産法一四〇条により手続費用の国庫仮支弁をしなければならないことを知りながら、右仮支弁を拒絶し、手続費用の予納を強要して原告に義務なき行為をさせ、もつて、原告の裁判を受ける権利を侵害したものであるところ、右の行為は、国の公権力の行使にあたる公務員がその職務を行うについて故意にした違法行為にあたることはいうまでもないことであるから、被告国は、右行為により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

5  (損害)<以下、事実省略>

理由

一原告が、三木俊博弁護士を代理人として、昭和五五年五月七日大阪地方裁判所に自己破産の申立をするとともに、破産手続費用の国庫仮支弁を申し立て、これに対し同裁判所第六民事部担当書記官から保管金提出書用紙が交付され、同月一九日同裁判所に右手続の費用として五万円を予納し、これにより同年六月七日午前一〇時同裁判所において破産宣告を受けるとともに、破産財団をもつて手続費用を償うに足りないとして同時に破産廃止の決定を受けたことは、当事者間に争いがない。

二原告は、前記裁判所の担当裁判官や担当書記官において自己破産を申立てた原告に対し、破産手続費用の国庫仮支弁を定める破産法一四〇条の規定を無視して右仮支弁を拒絶し、右費用の予納を強要し原告をして義務なきことを行わせるとの違法行為に出たと主張するので、以下これにつき検討する。

1  <証拠>を総合すれば、次のとおりの事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(一)  原告は、夫であつた辻本正利の債務につき連帯保証をしたことが主たる原因で前記自己破産の申立をした直前である昭和五五年四月当時、三井信託銀行等の金融機関に対し一八五万円、マルユー商事こと新本信雄ら約二二名のいわゆるサラ金業者に対し約五三〇万円、以上合計約七一五万円の債務を負担していたものであるが、右辻本と離婚した同年二月二五日以降長男(昭和五三年五月五日生)及び長女(昭和五四年七月一日生)二人の乳幼児を抱え、枚方市から生活保護法による生活扶助、住宅扶助、医療扶助を受けてようやく親子三人の生活を維持している状態であつたにもかかわらず、サラ金業者からの債権の取立が厳しく、これに苦慮した結果、同年四月末頃三木弁護士に相談し、その助言により同弁護士を代理人に選任して自己破産の申立をし、右債務を整理清算して再起更生を図ることにした。

(二)  三木弁護士は、原告の経済状態を考え、弁護士費用を法律扶助協会からの扶助によつて賄うとともに、破産手続費用を国庫からの仮支弁により賄うこととして、これにつき原告の承諾を得たうえ、同月二六日法律扶助協会に申請して弁護士費用等八万円につき扶助の決定を得たが、手続費用については、後記のような事情から、国庫からの仮支弁が受けられない場合もありうると考え、その場合には、これにつき改めて右協会に追加扶助の申請をすることを考えた。

(三)  そして、三木弁護士は、原告を申立人とする自己破産申立書のほかに仮支弁申立書を作成してこれに原告が生活扶助、法律扶助を受けている旨を記載するとともに、「もしダメな場合は予納命令を出して下さい。五万円程度扶助協会から借りる予定です」と記載した符箋を貼付し、これらに原告において前記のような生活保護法による扶助を受けている旨の所轄福祉事務所長作成の証明書等の疎明資料を添え、自己経営の事務所事務員橘木広行をして同年五月七日前記裁判所第六民事部受付窓口に持参提出させた。

(四)  ところで、大阪地方裁判所においては、破産法一四〇条の規定にかかわらず、自己破産の申立があつた場合にも、申立人に対し手続費用の予納をさせるよう計らうというのが、歴代担当裁判官により決定されたかねてからの取扱であつて、原告において破産の申立をした当時はすでにこれが実務慣行として定着確立しているかのような観を呈し、破産宣告にもかかわらず、同時廃止が見込まれる場合には五万円(その他の場合には五〇万円)を手続費用として予納させるのがならわしとなつており、この間の昭和五二年に開催された司法事務協議会において、大阪弁護士会側から、「自己破産申立について、破産法一四〇条によれば、破産手続費用は国庫より仮に支弁される定めがあるにも拘らず、予算措置がないとの理由で、この取扱いがされず、申立人に費用予納を命じられているが、右法文に従つた措置をとるよう要望する。」との協議事項が提出されたことがあつたが、裁判所側からは、「実情では要望に応じることは困難であり、出来る限り予納に協力願いたい。」との回答がされ、本件訴提起当時まで同裁判所において破産手続費用の仮支弁がされたことはなく、また、これにより、本件は別として申立人との間に争いが起きたことはなかつた。

(五)  前記のような実務慣行から前記事務員橘木との応待にあたつた同裁判所の担当主任書記官大野文雄は、提出された書類を点検し、手続費用につき国庫仮支弁の申立がされているのをみると、右費用につき仮支弁の扱いをしていないといつて右事務員に前記のように右費用予納の保管金提出書用紙を交付し、右費用として五万円を予納するよう求めた。そこで、右事務員は、三木弁護士に対し右担当書記官の指示を伝えた。

(六)  三木弁護士は、前記裁判所においては自己破産の申立の場合であつても手続費用の予納を求める扱いをしていることを知つていたので、原告の自己破産申立にあたり、前記のようにわざわざ原告が生活保護や法律扶助を受けていることを注記することにより注意を喚起し手続費用の仮支弁を求めたのであるが、それにもかかわらず、右費用の予納を求められたとの報告を聞き、右裁判所においては簡単に仮支弁を許さないと判断し、担当裁判官ないし担当書記官に直接面接して自ら折衝することをしないまま、前記のような窮状にある原告を急ぎ救うため、原告に対し手続費用の仮支弁が受けられないから、右費用についても法律扶助協会の扶助を受けることにすると伝えてその承諾を受けたうえ、翌日の同月九日法律扶助協会に追加扶助の申請をし、同月一二日予納を求められていた破産手続費用五万円につき扶助の決定を得て、前記のように同月一九日これを予納した。

(七)  以上の経過により、原告自身は、特に手続費用調達のため奔走しなければならないようなことはなかつた。

2  破産制度は、債務者が経済的に破綻し、総債権者に対する債務を完済する能力を失うに至つた場合において、一部債権者による抜駆的な債権の満足を禁じ、全債権者に公平・平等な債権の実現を得させることを目的として設けられた制度であるが、他面、債務者による自己破産の申立や免責の申立が許されていることからも窺うことができるように、支払能力を喪失した債務者において全財産を提供して清算することにより、ともすれば苛斂誅求に陥り易い債権者からの個別執行等を排除して経済的再起更生を計らせることを目的として設けられた制度でもある。そして、そのような破産制度の運用にあたつては、手続費用を要するところ、右費用は、破産制度を利用する者において負担すべきであり、破産法は、これを最終的には債務者の提供する財産により構成される破産財団をもつて賄うことを予定しているが、さしあたつて必要な費用は、手続費用が破産制度を利用する受益者によつて負担され、国によつて負担されるべきものではないとの建前よりすれば、これを破産申立人に予納させる以外に適当な手段がなく、ここに、破産法は、破産の申立をする場合、その申立をする者が債権者であるときは、その者においてこれを予納することを要するとした。

しかしながら、右の原則を貫徹して破産の申立をする者が債務者であるときにも、その者においてこれを予納しなければならないとすれば、右申立人は、支払能力を喪失しているものであるだけに、手続費用の予納に窮し、その結果、自己に保障された破産手続を利用することによつて得られる前記のような利益を享受することができなくなることも当然生ずることになる。そこで、破産法一四〇条は、債務者において破産の申立をするときには、特に手続費用を国庫から仮に支弁することにして、申立人に存するさし当つての困難を除去し、破産制度を利用することによつて得られる利益を享受するにつき支障がないよう配慮するに至つたものであるが、右手続費用は、受益者によつて負担され、国によつて負担されるべきものではないとの建前からの当然の帰結として、右手続費用の国庫からの仮支弁は、あくまでも国庫による一時的立替にすぎず、右立替にかかる仮支弁金は、破産宣告決定があつた場合においては、債務者の提供した財産をもつて構成された破産財団から優先的に弁済返納されるのである。

ところで、自己破産の申立をする債務者は、支払不能、支払停止、債務超過の状態に陥つているものであるから、手続費用を予納するにつき困難を伴うことは想像に難くないが、しかし、右にいう支払不能、支払停止、殊に、債務超過は、資産皆無と同義語ではないのであるから、破産の申立をする債務者の全部が常にさし当つて必要な手続費用を工面調達して予納することができないわけのものではなく、右債務者のなかには、右費用を工面調達して予納することのできるものも当然ありうることであつて、このことは、右費用が多額にわたらないときは特にそうであると考えられる(前認定大阪地方裁判所における過去の実情はこのことを物語つている。)。

そうすると、破産法一四〇条は、破産制度を利用しようとする自己破産申立人の利益擁護につき万全を期すため、右破産申立人を一般的抽象的に観察し、これに手続費用を予約する能力がないものとみて、国庫から右手続費用を仮に支弁することにしたものと解することができるが、右自己破産申立人を個別的具体的に観察すれば、額のいかんによることではあるが、右手続費用を予納する能力のある者も決してないとはいえないうえ、仮支弁された手続費用も、いずれ右申立人の財産により弁済されなければならないものであつて、仮支弁がされると否とにより最終的に申立人の経済的負担に損得が生ずるものでもない(このことは破産債権につき免責を得たと否とで異ることはない。)のであるから、裁判所において自己破産の申立があつた場合において、申立人が自ら進んで手続費用の予納を申し出たようなときには、前同条の規定にかかわらず、右予納を受け容れ手続費用の国庫仮支弁をしないことにしてもなんら違法のそしりを受くべきいわれのないことは、条理に照らし当然であるし、また、そうだとすれば、たとえ右申立人が自ら費用の予納を申し出ていない場合であつても、右申立人の信用、経済状態、予納を求めようとする金額、その他諸般の事情にかんがみ、運用上強制にわたり同条の趣旨を没却して申立人に保障された前記破産制度を利用することによつて得られる利益の享受を違法に妨げることになるおそれがあるようなときは格別、これがない限り、さし当つて申立人に対し、手続費用の予納を慫慂依頼し、これに対する申立人の対応を俟つて手続費用につき国庫からの仮支弁をするか否かの決定をする取扱をしたとしても、右取扱をもつて同条の趣旨に反する違法な措置とするまでのことはないと解するのが相当である。

3 そこで、本件についてこれをみるのに、さきに認定した事実によれば、原告の自己破産申立を受け付け応待にあたつた大阪地方裁判所第六民事部担当書記官において原告の代理人であつた三木弁護土の使者を介して同弁護土に対し、同裁判所の従来からの取扱上の実務慣行に従い、手続費用の予納を慫慂依頼して同弁護士に右費用を予納させ、同裁判所において原告に対し手続費用の国庫仮支弁をしなかつたことは明らかであるが、右裁判所の取扱上の実務慣行自体をもつて直ちに破産法一四〇条の趣旨を没却した違法なものであるとすることはできず、右裁判所が右実務慣行に従い原告に対してとつた措置が違法であるということができるのは、右措置が強制にわたり同条の趣旨を没却して原告に保障された破産制度を利用することによつて得られる利益の享受を違法に妨げることとなるおそれのあるものであつたということができるときでなければならないことは、さきに説示したところから明らかである。そこで、以下進んでこの点についてみるのに、次に述べるように、右裁判所のとつた措置に違法があつたとすることはできない。

すなわち、さきに認定した事実によれば、原告は、本件の破産申立当時生活保護法に基づく各種の扶助を受けていたほか、右申立についての弁護士費用についても法律扶助協会からの扶助を受けていたものであつて、右破産の申立に際し、右の事情を主張のうえ、その疎明も一応して手続費用の国庫仮支弁を求めていたのであるから、このような原告に対し前記実務上の慣行に従い、安易に手続費用の工面予納を求めることは、それが原告の独力による予納金の工面調達に期待するものであるならば、たとえ五万円程度の小額の金員の予納であつても、あるいは無理を強いるものであるとの非難を免れかねないかもしれない。しかしながら、原告は、右破産の申立に際しては、三木弁護士により手続費用の仮支弁を求める傍ら、仮支弁がされないときは、法律扶助協会から扶助を受けることをも予め考慮に入れ、裁判所に対し右協会から五万円程度の扶助を受ける予定であるとして手続費用として五万円程度を予納することができる見込にあることを特に明らかにし、かつ、裁判所から手続費用の予納を慫慂依頼されると、右弁護士の尽力だけで特別の困難を伴うこともなく当初の見込みどおり速やかに右協会から右手続費用につき扶助を受けることができたものであつて、しかも、このように右協会から扶助を受けたことにより、国庫から手続費用の仮支弁を受けたときに比し経済的、時間的、労力的に特に不利益を被るに至つたような事情は一切見当らないのであるから、裁判所から手続費用の予納を求められたことにより特に不利なことを強いられたということはできないし、また、事務員から裁判所より手続費用の予納を求められたことを聞いた三木弁護士においても、たとえ右裁判所において従来手続費用の仮支弁をしていないことを知つていたとしても、裁判所の依頼に従うことができない実情にあつたのであれば、自ら直接担当裁判官ないし担当書記官と交渉して仮支弁を促すなどする余地が全くなかつたということはできないと思われるにもかかわらず、これが一切されておらず、その間原告においては、必要な手続の履践を右弁護士に任せきりであつたのであるから、裁判所の前記措置を特に強制にわたるものと感じたとは考えられないし、更に、右裁判所においても従来から本件と同種自己破産の申立があつた場合、必ず申立人に対し手続費用の予納を慫慂依頼していたが、幸いすべての場合に協力が得られてこれにつき特に紛議を生じたようなことはなかつたうえ、原告において裁判所に対し五万円程度の費用を予納する余地のあることを申し出ていたこと前記のとおりであるから、手続費用の予納を依頼した前記担当書記官にも、かりにも右手続費用の予納を強制する意思などなかつたことはこれを窺うに難くなく、これら諸般の事情によれば、前記のように裁判所が原告に対し手続費用の予納を求め、これを予納させたことをもつて原告に対しその意に反することを強制して義務なき行為をさせたものであるとも、また、破産法一四〇条の趣旨を没却して原告に保障された破産制度を利用することによつて得られる利益の享受を違法に妨げるおそれのある所為に出たものであるともいい難い。

そして、他に右認定を左右し、原告の自己破産申立に際し前記裁判所の担当裁判官及び担当書記官において原告主張のように違法とすべき所為に出たことを認めるに足りる証拠はない。

三よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小酒禮 榎下義康 平井慶一)

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